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  • 2025-8-12
  • CATEGORY未分類

かむ、食べる、味わう

口の機能には、「食べる」「話す」「呼吸」「表情の表出」などの機能があります。

食べる かむ 味わう そして楽しむ

~食べる機能は、決して本能ではありません~

赤ちゃんは生まれて間もなく、お母さんのおっぱいを口で探り、口で乳首を捕らえようとします。捕らえたら、即座に「チュー、チュー」とミルクを吸い始めます。ここまでは、本能としての反射運動です。

しかしその後は、全身を目にして耳にして、五感を働かせて、食べる機能を獲得するために学習を始めます。お母さんの一挙手一投足を見て感じているのです。ですからお箸の文化やフォークの文化、あるいは手づかみの文化といった具合に食べ方が、同じ「人」でも異なるのです。

食べる機能を獲得するに当たり、離乳食が始まる頃、最初はよく口からこぼしたり、コップで水を飲むとむせたりすることが頻繁でしょう。手づかみをして、そのうちスプーンやフォーク、あるいはストローといった食具を使う学習が始まります。これら一連の機能は決して本能ではありません (図1)。しかも一つとして無駄のないステップを踏みながら食事機能獲得の道を歩んでいます。例えば、手づかみ食べは、食べ物に対して、手の感覚と口の感覚を一致させるための重要なステップです。手を汚すからといって、手づかみ食べを一切させなければ、おそらく異常に綺麗好きの子になったり、偏食が目立つような子になったりする可能性が大きくなります。

~認知機能から始まる食べる機能~

食べるためには、まず目の前に出された食べ物が何であるかを認識しなくてはなりません。今まで一度も見たことも、口の中に入れたこともないような食べ物に対して、われわれは警戒します。口に入れる前に、その食べ物をじっと見て、匂いをかいだり、お箸でつまんで感じを確かめたりするかもしれません。その食べ物が、硬いか軟らかいか、冷たいか熱いか、好きか嫌いかなどは、口に入れる前に、瞬時に予知、認識しているのです(図2)。それは過去の経験が記憶として刻まれており、その食べ物に合った食事行為をすることになります。

事実、固焼き煎餅とハンバーグでは、口に運ぶ量もスピードも異なっているはずです。もし、先天的な病気により、やむを得ず生後口から食べることができずに、点滴のみで栄養を補給されていたとします。
1歳になっていきなり離乳食を口に入れようとしても、恐らくその子は断固として食事を拒否するでしょう。生まれてから口から食べる経験がないその子にとって、当座食べ物は単なる異物でしかないのです。

また認知症のように記憶や認知機能に障害が生じると、目の前の食べ物を硬い軟らかいの区別なく、ひたすらガツガツと一本調子で口に詰め込んでしまう場合があります。食べ物は認識できても、硬さ、熱さ、嗜好の認識までは働くことが困難だからです。

われわれは生まれてからずっと、食べることへの経験を積み重ねて、それを無意識の中で記憶に留めて、食事機能を繰り返しているのです。

~かむ動作、咀嚼とは~

口に入れるためには、硬い食べ物であれば前歯でかみ切らなければなりません(咬断:こうだん)。

かみ切ったものは奥歯に運んで砕いたり(粉砕)、すり潰したり(臼磨)します。

かみ砕かれたものは、さらに舌が唾液と混ぜ合わせることにより(混合)ドロドロとした塊(食塊)を舌の上に作り上げます(食塊形成)。

咀嚼は、単に食べ物を歯で砕いているだけではなく、食塊を形成するために咬断、臼磨、粉砕、混合の連続した過程です。

臼磨、粉砕のためには、図3に示したように奥歯のかみ合せの面に食べ物を保持しなくてはなりません。したがって、内側から舌、外側から頬が適度な力で食べ物を挟む必要があります。例えば、脳卒中の後遺症で舌や頬に麻痺が残るようですと、図4に示したように、食べ物がそのままの形で歯の表面に張り付いたままになってしまいます。これは咀嚼障害というものです。

~味わう、楽しむ~

食事とは、単に口から栄養と水分が補給されれば良いというものではありません。食事の基本は「楽しいこと」だと思います。楽しみを得るために、味わいがあります。

味覚は、舌の表面にある味蕾という細胞が、味の刺激を受けることにより、味刺激が脳へ伝導されて感じるものです。味蕾細胞は、1週間くらいで新しい細胞に変わっていきます。この新陳代謝は、食事や会話をすることによって、口の中で自然と行われているサイクルです。

味覚を得て、それをおいしいとか、まずいとかは、記憶や過去の経験などと照らし合わせて瞬時に判断されます。また、同じ食材であっても温度、香り、見栄え、味付けが違えば、おいしくもまずくもなるでしょう。さらに同じ食べ物であっても、満腹と空腹、食事の相手が上司か家族かでも異なると思います。

いずれにせよ食事が「おいしかった」「楽しかった」と感じられるための共通の条件は、「健康な口の機能」であることは間違いありません。

飲む、飲み込む

~嚥下(飲み込み)は、口腔内が密封された瞬間の反射運動~

咀嚼は、口の中で食べ物を飲み込みやすいように唾液と混ぜながら食べ物の塊(食塊:しょっかい)を作る工程です。食塊が形成されると飲み込みの反射(嚥下反射:えんげはんしゃ)が起こり、食塊が咽を通過します。これが飲み込む、すなわち嚥下(えんげ)です。

1.嚥下のメカニズム

 

図1に嚥下が始まる直前のビデオレントゲン造影検査の画像を示します。
嚥下が始まる時、まず口が閉じます。口が開け放しでは、動かせるのは舌だけで、嚥下しづらいはずです。同時に上下顎の歯が一瞬かんでいるのがおわかりでしょうか。顎がふらついていたのでは、嚥下はできません。顎を固定するために奥歯が一瞬かみ合うのです。歯は咀嚼だけではなく、嚥下にも重要な役割を果たしています。

さらに軟口蓋(上顎の奥の柔らかい筋肉組織)が反り上がって、鼻咽腔(口から鼻に繋がる通路)を封鎖します。このとき口腔内は完全に封鎖されます。

そこで、舌が勢いよく口蓋(上顎)に向かって押し上がり、口腔の内圧を一瞬にして高めます。この時、咽仏を触れると咽が一旦上がって(喉頭挙上:こうとうきょじょう)から下がるのが分かります。舌が口蓋を押し上げるのに連動して、喉頭挙上が起こるのです。喉頭が挙上している時の舌根部(舌の最後方部)は、食塊を咽頭に送り込みやすいように下方に押し下がっています(図2)。舌根とともに気管の入り口にある蓋(喉頭蓋:こうとうがい)も下がって、気管の入り口を塞ぎます。さらに次の瞬間、反射運動として食道の入り口が開き、喉頭蓋の上、あるいは左右の両脇を通過してきた食塊が食道に運ばれていきます。

嚥下の際の食塊は、口が塞がり、鼻が塞がり、そして気管が塞がり、圧に押されるようにして食道に移送されます。「飲み込む・嚥下運動」は、口から咽にかけて、それぞれの器官が100分の1秒単位で行う反射的協調によって成り立っています。

2.嚥下は全身を使っての協調運動

嚥下の時の「呼吸」に注目してみましょう。嚥下する直前には息を止めています。止めた直後にゴクリと嚥下をします。嚥下した直後には、わずかですが息を吐いています。すなわち、嚥下は「息を吸って→止めて→ゴクンと嚥下して→吐く」といった具合に、呼吸リズムの繰り返しです。ビールをグッと飲んだ直後に「ハー」と感嘆のような息を吐いていることからも、一連の呼吸の流れが分かると思います。呼吸は何が担っているかというと、口や咽ばかりでなく、肺を取り囲む、胸筋、背筋、腹筋も活躍しています。
このように、たかだか1回の嚥下も、人体が総出となった協調運動なのです。

3.摂食・嚥下(せっしょく・えんげ)障害(摂食機能障害)とは

例えば脳卒中の場合、手や足が思うように動かせない後遺症が残ることがあります。利き手が麻痺してしまったら、お箸を持って食事をするのはさぞ難しくなることでしょう。しかし、実はこのような麻痺は、口や咽にも残ります。「口が開きづらい」「唇が閉まらない」「舌が動かない」「頬の感覚がない」などです。その結果、食べ物が歯の表面に張り付いたままになったり、唾液や食べ物を口からこぼしてしまいます。

さらに、咽にも麻痺が残ると、もっと危険な状況になります。飲み込んだ物が食道に行かず、気管の方へ行ってしまうのです。これが誤嚥(ごえん)と呼ばれるものです(図3)。先程の嚥下のメカニズムを知れば、どうしてこのようなことが起きてしまうのか理解ができます。手が思うように上がらないのと同じように、例えば軟口蓋が上がるタイミングが遅れると、口腔内が密封されずに内圧が高まりません。口腔内から咽頭へ食塊が送られるスピードやパワーは落ちてしまうでしょう。あるいは、咽が上がりきることができなければ、喉頭蓋が気管の入り口を完全に塞ぐことができないことになります。そうすれば、食塊は開き放しの気管の方へ行ってしまうことでしょう。誤嚥のために肺炎を起こしたり(誤嚥性肺炎)、窒息したりで直接生命も危ぶまれる事態になります。

以上のように、食べる行為、咀嚼、および嚥下に障害がある場合を「摂食・嚥下障害(摂食機能障害)」と言います。摂食・嚥下障害の患者さんは、超高齢社会となり、またハイリスク出産等の増加とともに年々増える一方なのです。

そこで、手や足にリハビリテーションがあるのと同様に、口や咽、すなわち食べる機能にもリハビリテーションがあります。食べられないからといって点滴のみで生命を維持するのではなく、摂食・嚥下リハビリテーションを施すことにより、再び「食事のある生活」を取り戻すことができるのです。

日本歯科医師会https://www.jda.or.jp/park/function/index08.html

       https://www.jda.or.jp/park/function/index09.html

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